つくしんぼ通信令和6年9月号
軽度認知障害はMCI(Mild Cognitive Impairment)と略され、この度、相次いで治療薬が承認されたため脚光を浴びることになりました。MCIは年相応のもの忘れと認知症の間の状態とされています。アルツハイマー型認知症の原因となるアミロイドβという異常タンパクをコントロールすることで認知症への進行を抑制しようとする薬で期待されています。
MCIの方々が治療の対象者であるため、MCIの診断が重要になってきます。そこで問題になっているのが医師から処方される薬剤が原因となって起こる薬剤性のMCIです。薬剤の中で特に問題になるのがベンゾジアゼピン受容体作動薬と呼ばれる種類の薬とその類似薬で高齢者にも多く処方されている抗不安薬デパス、睡眠薬のマイスリー(ゾルビデム)、レンドルミン(ブロチゾラム)、ハルシオン(トリアゾラム)、アモバン(ゾビクロン)、セルシン(ジアゼパム)などがあります。もの忘れやふらつき、怒りっぽさ、幻覚などを訴えて受診してきた高齢者で、これらの薬をやめると症状が消え、認知症状も消える人が多く存在します。もの忘れなどがある高齢者でベンゾジアゼピンが投与されている場合は副作用の可能性があります。ベンゾジアゼピン以外の薬で気を付けたいのはアレルギーや胃腸薬として使用される抗ヒスタミン薬で覚醒や記憶に影響するため注意が必要です。胃薬としてテレビコマーシャルでもお馴染みのガスター(ファモチジン)などは疑問も感じず連用されている方が多いので注意しなければなりません。同じような副作用を持つ抗コリン薬も頻尿の改善に汎用されており注意しなければなりません。例えばベシケア(ソリフェナシン)、ウリトス(イミダフェナシン)、バップフォー(プロぺビリン)など日常的に長く服用されているのが特徴です。もの忘れかなと思ったらアルツハイマー病を疑う前にまずは薬の影響を見逃さないようにしなければなりません。自己判断で中止せず主治医と相談することが大切です。診療ガイドラインではMCIから認知症に移行する割合は1年当り5~15%、正常に戻る割合は16~41%とされており、MCIがアルツハイマー病ばかりではないことを示唆しています。
さて、睡眠薬の副作用が疑われた場合、薬を中止しなければなりません。しかし、睡眠薬の依存症陥っていることが多く、あれやこれや理由をつけてなんとか飲み続けようとします。日々それぞれの方々の屁理屈を楽しく聞いています。睡眠薬は止めるのが難しいですが、やめられない人は遅寝早起きに生活を切り替えるのも方法の一つです。2時間遅く寝て2時間早く起きてみてください。このような工夫で薬から離脱することができるかもしれません。
私の経験ではマイスリーを3日内服すると翌日薬の名前が出てこなくなり仕事に支障をきたしてしまいます。薬で認知症になるのは避けなければなりません。